こんにちは。
社労士試験合格者であり、現役労務ワーカーの11ぴきのぺんぎんです。
労務の仕事をしていると、ケガや病気で会社を休まざるを得ない社員さんの対応をすることもあります。
そんな時は、少し胸が苦しくなって、そして今できることを正確に伝えなければという思いが強くなります。
なので、今回の記事は、
- 「病気やケガをした社員に社会保険の制度を説明したい」という労務ワーカーの方
- 「会社ではなかなか人事や労務担当に聞きづらい…。」という方
に、少しでも役に立てるような記事にできたらと思っています。
病気やケガは他人事ではない
厚生労働省が行った、「治療と職業生活の両立等支援対策事業」で、企業を対象に実施したアンケート調査によると、
疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は
- メンタルヘルス…38%
- がん…21%
- 脳血管疾患…12%となっています。
この調査をみると、
企業10社のうち4社がメンタルヘルスで、また2社にはがんでお休みしている社員がいるということです。
労務ワーカーとしては、普段社員さんと接していて、その予兆を感じている場合もあれば、ある日いきなりお休みすることを告げられることもあります。
病気やケガは、誰だってなりたくてなっている訳ではないし、誰がいつなるかわかりません。
在職中にケガや病気で働けなくなってしまったら
会社の休職制度を調べよう
厚生労働省も治療と仕事の両立支援に力を入れている
まずは、ケガや病気になってしまったら、在職してる会社でどんなお休みがとれるか調べてみましょう。
今は、厚生労働省も、職場での治療と仕事の両立を推進しています。
もしかしたら、自分が知らないだけで、休職制度があるかもしれません。
・厚生労働省 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
就業規則か労働条件通知書を確認→わからなければ人事課に質問してみよう
就業規則は、労基法上は、常時10人以上の労働者を使用する場合は、作成する必要があります。
でも、普段から就業規則ってそんなに目にしないですよね。
「労働条件通知書」は、その会社で働き始めたときに、雇用期間や給与等が記載された文書をもらっていればそれが「労働条件通知書」です。
でも、「就業規則」だって、もしあったしても、どこに何が書いてあるかよくわからないかもしれないし、
「労働条件通知書」はどこにいっちゃたかわからない…。
そんなときは、遠慮しないで、人事課や総務課などに質問してみましょう(^^)
質問するときは、このような箇所を確認すると、
「自分があてはまるのか」、「もし休職したら生活がどう変わるか」がよくわかると思います。
- 休職できる社員の範囲(すべての社員なのか、限定があるのか)
- 休職できる期間
- 休職中の給与等(何割か減額されて支給されるのか、無給か等)
健康保険の傷病手当金の申請をしよう
ケガ、病気になって働けなくなってしまったとき、会社で健康保険に加入している場合は、
健康保険組合(以下健保)から「傷病手当金」を受給できる場合があります。
ご自身がどこの健康保険に加入しているか、どこに問い合わせをすればいいかは、病院にかかるときにもっていく「健康保険被保険者証」をみてくださいね(^^)
支給額は、健保によって違う場合もありますが、今回は代表的な「協会けんぽ」の例で説明します。
傷病手当が受給できる条件って?
では、「傷病手当金」が支給がされるのは、どのような場合でしょうか。
まず前提として、
ケガや病気の原因が業務上のものの場合→労災です。
労災の場合は、健保からの支給ではなく、国からの支給となります。
また、申請手続きも会社でやってくれるので、今回お話ししている傷病手当金とは全く別のものです。
つまりは、健康保険から支給される「傷病手当金」は、ケガや病気の原因が業務外のものの時に支給されます。
そのほかにも条件があり、以下の4点を満たした場合に、傷病手当金は支給されます。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間(待機期間)を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
待機の3日間とは?
傷病手当金は、仕事を休んだ日から連続した3日間(待期期間)の後、4日目以降の仕事を休んだ日について支給されます。
連続した3日間(待期期間)には、以下のものも含まれます。
- 有給休暇
- 土日・祝日等の公休日
そして、給与の支払いがあったかどうかも関係ありません。
つまりは、有給休暇でも土日でもなんでもいいから、病気やケガで連続して働けていない日が3日あれば待機完成です。
例えば、
・金曜日の朝にケガをして会社を休んだ
→金・土・月(会社休んだ)→月曜日から傷病手当金の対象となりうる
ということです(^^)
「え!?土日もいれっちゃっていいの!?」てちょっと驚きますよね。
協会けんぽのサイトの図がわかりやすかったので、この下にいれておきます。
・待機3日の考え方
病気やケガで会社を休んだとき「待期3日間」の考え方 協会けんぽより
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3180/1979-62524/
傷病手当金はどのくらいの期間支給される?
こちらも協会けんぽの説明がとってもわかりやすかったので、引用します。
傷病手当金が支給される期間は、支給開始した日から最長1年6ヵ月です。
これは、1年6ヵ月分支給されるということではなく、1年6ヵ月の間に仕事に復帰した期間があり、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなった場合でも、復帰期間も1年6ヵ月に算入されます。
支給開始後1年6ヵ月を超えた場合は、仕事に就くことができない場合であっても、傷病手当金は支給されません。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/
つまりは、原則、最長で1年6か月支給されます。
そして、一度復帰したら二度と受給できないのはなく、最初の支給から1年6か月経過していなければ、また受給できるということです。
傷病手当受給中は、会社としては社員に給与が払えなくても、健保から傷病手当金を支給してくれるので、会社の費用が一切かからないのも特徴です。
支給される金額
傷病手当については、該当する日が1日でもあれば支給されます。
その支給額は、
支給開始日以前の継続した12か月の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3
です。
えっと、よくわからないですよね。
とーってもざっくりいってしまうと、1年間の給与の月額の平均の2/3ぐらいがもらえるというイメージです。
標準報酬月額は、毎月変わるわけではないので正確ではないですが、ざっくりとつかむにはこれで(^^)
例えば、
・毎月30万(手取りではなく、いろいろ控除される前の額)をもらっている人の場合、
一日あたりの金額は、
・30万÷30×2/3=6667円(小数点第1位四捨五入)
となります。
もし、4/1~4/30まで休んだ場合は、土日などの公休日も支給されますので、
・6667円×30日=200,010円支給されます。
支給申請手続き
それでは、実際の支給申請手続に入ります。
傷病手当金の支給申請書には、3つの記入するパートがあります。
- 申請者本人が記入するところ
- 事業主が証明するところ
- 主治医に書いてもらうところ(療養担当者の意見書)
なので、会社や病院で必要な箇所を書いてもらったら、ご自身の健保に郵送しましょう。
協会けんぽのこのページには様式や記入例がのっています。
退職することになったら
健康保険の傷病手当金を継続しよう
もし、そのまま退職することになった場合でも、以下の条件があてはまれば、傷病手当金を継続して受給することができます。
- 資格喪失の日の前日(退職日等)まで被保険者期間が継続して1年以上ある
- 被保険者資格喪失日の前日(退職日等)に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態である
ここの「傷病手当金を受けられる状態」とは、病気やケガで休んでいるけど、会社から報酬が支払われているから傷病手当金が支給されていない状態のことなどです。
また、継続するにあたっては、以下のような注意点があります。
- 退職日に出勤した事実があれば対象外(退職日に傷病手当を受給していたいうことにならない)
- 受給できるのは、退職日から1年半ではなく、あくまで支給開始から1年半
- 健康保険を任意継続していなくても受給継続できる
- 退職後一旦仕事に就くことができる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されない
特に退職日に勤務していないというのは重要ですので、継続給付を希望する場合は注意が必要です。
退職後の健康保険・国民年金の手続きをしよう
退職後は、今の会社の保険証が使えなくなりますので、自分でほかの健康保険に加入する必要があります。
退職後の健康保険としては、
- 在職中に加入していた健康保険を任意継続する
- 住んでいる市区町村で国民健康保険に加入する
- 家族の健康保険の被扶養者になる
というものがあります。
任意継続は2か月以上の在職期間+退職後20日以内に申請を!
任意継続については、在職中の加入期間が2か月以上あること、退職から20日以内に手続きをする必要があります。
申請の際は「退職した事実がわかるもの(離職票など)の写しを添付すると、早く保険証をもらえます。
家族の健康保険の被扶養者になる場合は傷病手当金に注意
ご家族の被扶養者となる場合は、
「傷病手当金」や「失業等給付(ハローワーク)」を受給していると、収入要件を超えてしまって、被扶養者となれない場合があります。
その場合は、任意継続か国民健康保険に加入しなければならないです。
傷病手当金で受給している金額を伝えつつ、早めにご家族の会社や健保組合に相談しておくとスムーズかもしれません(^^)
ちなみに協会けんぽの被扶養者となれる条件はこちらです↓
あと、ご家族の扶養とならない場合は、健康保険に加えて、国民年金の手続きも、お住いの市区町村の支所で済ませましょう。
退職後の健康保険については、また別の記事にしたいと思っていますが、こちらのサイトがわかりやすかったです(^^)↓
雇用保険の基本手当(失業等給付)について
最後は、雇用保険(ハローワーク)の求職者給付、よく聞くワードだと失業手当(本当は基本手当という名称)について説明します。
すぐに求職活動をする場合
基本手当は、どのくらい雇用保険に加入していれば受給できる?
基本手当は、本来であれば、
- 退職する前2年間に、被保険者期間(月11日以上出勤した日)が12か月以上
あれば、支給されます。
しかし、
心身の障害や疾病、負傷によって退職した場合は、
・退職する前1年間に、被保険者期間(月11日以上出勤した日)が6か月以上
あれば、受給できることになっています。
だけど、「退職前はずっとお休みしていて、月11日以上勤務した日なんて全然ない…」という場合でも安心してください(^^)
疾病等で引き続き30日以上給料をもらっていない期間がある場合は、最長4年前までさかのぼって、11日出勤がある日を確認してもらえます!
基本手当はいつから支給できる?
通常、自己都合で退職した場合は、
・待機7日間+給付制限3か月→そのあとに支給
なので、給付を受けるまでには3か月近くかかってしまいます。
でも安心してください(^^)
こちらも、さきほどと同じように、心身の障害や疾病、負傷によって退職した場合は、3か月の給付制限はかかりません。
つまり、
・待機7日間→支給
で、すぐに支給されます。
ただし、あくまで基本手当は再就職ありきの手当なので、心身が就労に耐えられない場合は、基本手当の受給は難しいかもしれません。
すぐに求職活動をしない場合
健康保険の傷病手当金を受給していると、基本手当は受給できない
健康保険の傷病手当金と、雇用保険の基本手当を一緒に受給することはできません。
しかし、いままでかけてきた雇用保険料をみすみす捨ててしまうのは非常にもったいないです…( ;∀;)
なので、次に紹介する「受給期間の延長」を必ずしましょう!
基本手当を受給できる期間を延長しよう
原則、基本手当を受給できる期間は、1年間です。
でも、疾病やケガで1年求職活動できないこともあるかもしれません。
そんなケースは、基本手当はあきらめるしかないのでしょうか。
それは違います!!
妊娠・出産・育児や傷病等つき、引き続き30日以上職業につくことができない場合は、最長で退職した日の4年後まで受給期間を延長できます。
つまりは、手続きさえしておけば、傷病手当の受給が終わり、体力も回復してきたころに、基本手当を受給しながら求職活動できるんです。
例えば、
・2019/3/31退職。傷病手当受給中の退職。退職後も継続して傷病手当金を受給する。
・退職した時点で傷病手当金は残り1年2か月あり。
・2019/4/1…傷病手当金を受給。→基本手当は受給延長の手続きをしておく
・2020/5/31→傷病手当金の受給終了
・2020/6/1~…待機期間後に基本手当を受給しながら求職活動
←もし受給期間の延長手続きをしていなければ、2020/3/31で基本手当の受給期間は終了している
=2020/6/1から休職活動しても手当はなかったということです。
なので、絶対ハローワークで基本手当の受給延長の申請はしておきましょう。
在職中から退職までのもらえるお金フローチャート
今までの内容をふまえて、在職中に病気・ケガをした場合の社会保険から受給できるお金の流れについて、
1枚の資料にまとめてみました。
よろしければ活用ください。
・在職中に病気・ケガをした場合の社会保険から受給できるお金について(PDF・A4横)
でも本当は、みなさんの心身が健やかで、この記事が必要ない状態が一番理想なのですよね…。
まとめ
- 病気、ケガで働けないときは誰にきてもおかしくない
- 会社の休職制度を調べよう
- 健康保険に加入しているなら、傷病手当金を申請しよう
- 退職後も傷病手当金を継続できる場合がある
- 退職後は自分で保険証の手続きが必要
- 傷病手当金とハローワークの失業給付は一緒にもらえない
- すぐに求職活動しないときは、ハローワークで受給期間の延長をしよう
- とにかく心身を大切に