「休業手当を試算してみて!」っていわれたら…
こんにちは。労務ワーカーとして勤務している11ぴきのぺんきんです。
新型コロナウイルスの影響がさまざまなところに広がっている今ですが、
今回初めて「休業手当」を支給するケースに遭遇した労務ワーカーさんも多いのではないでしょうか。
実際に、私が勤務する会社でも、休業手当を試算し、実際に支給しました。
私の勤務する会社は、月給や時給、雇用開始日、勤務形態も様々です。
なので、実際に試算&支給事務をしてみると、
「3か月まだ働いてない社員はどうするんだろ…」とか、
「勤務日が少ないパート社員さんはどうやって計算するんだろう…」とか、
「入社日から自宅待機となってしまった場合はどうするんだろう…」など、
いろいろな疑問が浮かびました。
私は社労士試験の勉強を4年間続け、2018年にやっと合格できたのですが、
今回、休業手当計算をしてみて、社労士試験のときに勉強したことがとても役に立ちました。
きっと私が疑問に思ったところは、同じ労務ワーカーのみなさんも知りたいところだと思うので、
今回は休業手当の計算方法について記事にしてみたいと思います。
休業手当とは
休業手当ってどんな時に払われるの?
労働基準法第26条では、
「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業期間中に当該労働者にその平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」
となっており、これが休業手当といわれるものです。
簡単にいうと、「使用者の責に帰すべき事由=会社のせい」で勤務ができない場合は、休業手当を支払いなさいということです。
でも、この「使用者の責に帰すべき事由=会社のせい」というところが結構範囲が広いのが特徴です。
例えば、
「自分の工場で製品をつくっているが、部品をつくるメーカーから物が入ってこなくて、製品の組み立てができないから休ませる」
というのは、一見「使用者の責に帰すべき事由=会社のせい」ではないように感じますが、
これは「使用者の責に帰すべき事由」となります。
会社からすると結構厳しいですが、労働者の生活を保障するためのものなんですね。
労基法での「休業手当」と「休業補償」の違い
労働基準法には、「休業手当」と似たような言葉で、「休業補償」という言葉もあります。
労働基準法第76条では、
「労働者が業務上の傷病による療養で労働不能のため賃金を受けない場合においては、平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。」
となっており、これが労基法上の休業補償です。
ポイントは、業務を原因としてケガ・病気になり、働けないときに支払われるということです。
さきほどの休業手当は、「業務を原因としてケガ・病気になり、働けないとき」という条件はないので、まったく違うものだということがわかります。
でも、普通に「休業手当」「休業補償」って聞いたら同じものだと思いますよね。
とくに「休業補償」という言葉は、労基法だけでなくいろんな場面で使われることが多いので、混乱します。
そのあたりを、社会保険労務士のかなやま先生がnoteでとてもわかりやすく整理してくださっていますので、これを読むことをオススメします(^^)
新型コロナウイルスと休業手当
新型コロナウイルスによる休業が、休業手当対象になるかは、厚生労働省の企業向けQ&Aに回答が掲載されています。
新型コロナウイルスによる休業といっても、様々なケースがあるので、そのケースが「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかで、会社として休業手当の支払いが必要になるか否かの結論が分かれるということではないでしょうか。
休業手当の計算方法
休業手当=平均賃金の60%以上
先ほども紹介しましたが、休業手当は、
平均賃金×60%以上ということになります。
なので、「平均賃金」が計算できないと、休業手当は計算できないということになります。
一日のうち少し働いた日の休業手当は?
労働日のうち少し働いて、一部を休業した場合は、労働した分の賃金と、休業手当あわせて平均賃金の60%を支払わなければなりません。
実際の計算例で考えてみます。
・平均賃金が10,000円→休業手当は6,000円必要
・4/10は少し勤務して、勤務した分2,000円の賃金が発生
・勤務した2,000円では、休業手当として必要な6,000円には4,000円足りない
・残り4,000円分=休業手当として支払いが必要
→結論:賃金分2,000円+休業手当4,000円=6,000円支給する
ということになります。
それでは次に、休業手当の計算に必要な「平均賃金」の計算に入ります。
平均賃金の計算方法
原則的な計算方法
平均賃金の原則的な算定式は、
算定すべき事由が発生した日以前3か月に支払われた賃金の総額÷算定すべき事由が発生した日以前3か月間の総日数
です。
注意点としては、
・「総支給額」には、各種手当も入ります。
・「総日数」とは、土日祝日も含めた、暦日(月のすべての日)です。
では、具体的な計算はどうなるでしょうか。
例として、
・7/1から休業。
・4月…20万円、5月…25万円、6月…15万円支給
→総額=60万円、総日数…4月は30日、5月は31日、6月は30日=91日
平均賃金は、60万÷91日=6593.40円となります。
平均賃金の端数処理については、銭未満切捨となっていますので、ご注意ください。
つまり、原則的な平均賃金で計算した場合の休業手当は、
算定すべき事由が発生した日以前3か月に支払われた賃金の総額÷算定すべき事由が発生した日以前3か月間の総日数×休業日数×60/100以上
ということになります。
さきほどの例でいうと、
支給率が60%としたら、7/1の休業で支払う休業手当の額は、
6593.40円×1日×0.6=3956.04円→3959円です。
休業手当の端数は、円未満四捨五入(50銭未満切捨て、50銭以上切上げ)となりますのでご注意ください。
神奈川労働局のホームページに具体的な計算例が書かれていますので、参考にしてみてください。
平均賃金の計算に含まれないもの
平均賃金を計算するときに、計算には含めない賃金や期間があります。
平均賃金を計算する対象期間の中に、以下のものがある場合は、その「期間」も、「賃金」もごっそり抜きます。
- 業務上の負傷又は疾病による療養のための休業期間
- 産前産後の休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
- 育児・介護休業期間
- 試みの使用期間
ポイントとしては、例えば
・4月分の休業手当を支給
・5月分も休業手当の支給をしなくてはならないときは
・5月分の平均賃金の算定→4月の休業手当分は期間も賃金も含めないで計算するということです。
直前の賃金締切日があるかで計算の起算日が変わる
次に、平均賃金の対象となる期間がいつからかということを説明します。
一番大きなポイントは、「直前の賃金締切日がいつか」ということです。
なぜなら、「3か月の期間は、賃金締切日がある場合においては、算定事由発生日の直前の賃金締切日から起算される」となっているからです。
例えば、
・賃金の支払い…月末締め、翌月20日払
・休業する日…7/1
→6/30が直前の賃金締切日となり、4/1~6/30までの分で平均賃金を計算します。
これが例えば、
・休業する日…6/29の場合は、
→直前の賃金締切日は、5/31となり、3/1~5/31までの分で平均賃金を計算します。
3か月以上働いていなかった場合は?
平均賃金の計算期間は3か月となっていますが、まだ入社してから間もなく、勤務した期間が3か月未満の場合はどうなるのでしょうか。
「雇い入れ3か月未満の場合は、雇い入れの期間及びその賃金で計算することになります。
例えば、
・4/1入社
・6/2休業
・賃金の締日…末日
→4/1~5/31までの2か月分で平均賃金を計算します。
そもそも入社した日から休業の場合は?
例えば、4/1入社予定だったけど、4/1からいきなり自宅待機となってしまった場合の休業手当はどうなるのでしょうか。
なかなかこのケースの回答がみつからなくて、調べるのに時間がかかってしまいましたが、こちらのケースは、WORKINNOVATIONという社労士法人さんのサイトが参考になりました。
勤務が全くない状態で平均賃金を算定しなければならない場合は、雇用契約の条件で、直前の3か月に支払ったと仮定して、計算するそうです。
また、こちらのSR人事メディアさんの記事には、より詳細な事例の記載があります。
アルバイトなどのシフト制の場合は、同じ業務に従事した労働者の一人平均の賃金額により推算されることになるそうです。
日給・時給などで働いている人は最低保証の計算式がある
最後にもう一息です。
日給や時給などで働いている人の場合は、平均賃金の最低保証があります。
最低保証の計算式は、
(日給、時間給、出来高払等の総額÷事由の発生した日以前3か月に労働した日数)×(60/100)
です。
労働した日とは、「実際に勤務した日」です。
例えば、
・4/1~4/30の期間で
・実際に勤務した日が15日
→労働した日は、15日となります。
原則の場合は暦日ですので、30日となります。
ここで日数が変わってくるので、60%を掛けるのです。
そして、この最低保証の金額↑と
原則の金額↓
算定すべき事由が発生した日以前3か月に支払われた賃金の総額÷算定すべき事由が発生した日以前3か月間の総日数
を比較して、
高いほうを平均賃金として採用します。
つまりは、この最低保証が「平均賃金」として採用された場合、「休業手当」は、
(日給、時間給、出来高払等の総額÷事由の発生した日以前3か月に労働した日数)×(60/100)×休業した日数×(60/100以上)
となる訳です。60/100が2回ででくるのがポイントです。
平均賃金の計算フローチャートをつくってみた
と、以上の内容をふまえて、平均賃金の計算フローチャートをつくってみました。
A4横2枚になっていますが、スマホだと見づらいかもしれません。汗
https://11penguins.com/wp-content/uploads/2020/04/平均賃金計算方法チャート.pdf
自分の平均賃金を確認したいと思ったら
HRBASEさんのサイトに、平均賃金が計算できるエクセルシートがありました。
ご自身の平均賃金を確認したい場合、自分の計算があっているか確認したい場合に、とてもありがたいですね。
今回の記事をつくるにあたって大原社労士講座のテキストを読み返した
今回の記事を作るにあたって、以前自分が社労士試験を受験していたときの、資格の大原社労士講座の労働基準法の「平均賃金」「休業手当」のページをたくさん読み返しました。
やっぱりテキストはわかりやすいし、講師の先生が口頭で説明したところが赤字で書いてあるので、それがより理解をスムーズにしてくれました。
法改正など、変わっていく部分もありますが、やはりテキストは大切にとっておきたいです。
資格の大原社労士講座の案内はこちらです。
労務ワーカーにとっても、厳しい時期が続きますが、一緒にがんばりましょう!