新型コロナウイルスの特例改定が発表された
こんにちは。
2018年に社労士試験を合格し、現役労務ワーカーの11ぴきのぺんぎんです。
先日、休業手当を支払ったときの月変・算定について記事にしたばかりです。
◆過去記事 「休業手当を支払った時の算定・月変ってどうなるの?を整理してみた」
この記事を公開してからおおよそ1週間後に、日本年金機構から、
「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における標準報酬月額の特例改定」(以下特例改定)の発表がされました。
それを知ったときの私のツイートがこちらです。
いつも、特定社会保険労務士の宮武貴美先生のものすごく速い情報発信にツイートに助けられています…。
発表から約2週間経過し、Q&Aなども公開されたので、今回は自分なりにポイントを整理してみたいと思います。
今回情報を収集した日本年金機構のホームページはこちらです。
詳細な説明、Q&A、様式などすべてがここに掲載されています。
新型コロナウイルスの特例改定は通常の随時改定(月変)となにが違う?
通常の随時改定(月変)とは
まずは、通常の随時改定(以下通常月変)を簡単におさらいしてみます。
通常月変について、日本年金機構のホームページでは、このように書かれています。
被保険者の報酬が、昇(降)給等の固定的賃金の変動に伴って大幅に変わったときは、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定します。
これを随時改定といいます。
随時改定は、次の3つの条件を全て満たす場合に行います。
(1)昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
(3)3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。
◆日本年金機構 随時改定について
新型コロナウイルスの特例改定とは
日本年金機構の「標準報酬月額の特例改定についての詳細説明」によると、
次の1~3すべての要件を満たした場合、報酬が急減となった月の翌月の 標準報酬月額から改定することができます。
1 新型コロナウイルス感染症の影響により休業(時間単位を含む)があったこ とにより、令和2年4月から7月までの間に、報酬が著しく低下した月が生じた方
※ 休業とは、労働者が事業所において、労働契約、就業規則、労働協約等で められた所定労働日に労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、当該所定労働日の全1日にわたり労働することができない状態又は当該所定労働日の労働時間内において1時間以上労働することができない状態をい います。
2 著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1か月分)が、これまで の標準報酬月額に比べて、2等級以上下がった方
※ 固定的賃金(基本給、日給等単価等)の変動がない場合も対象となります。
※ なお、被保険者期間が急減月を含めて3か月未満の方については、特例改定の要件となる被保険者期間を満たさないため、特例改定による届出の対象とはなりません。
3 標準報酬月額の特例改定による改定内容に被保険者本人が書面により同意していること
※ 被保険者本人の十分な理解に基づく事前の同意が必要となります。 (改定後の標準報酬月額に基づき、傷病手当金、出産手当金及び年金の額が 算出されることへの同意を含みます。)
※給与計算の基礎日数(17 日以上)に ついても、事業主からの休業命令や自宅待機指示などがあり、その間、使用関係が継続していれば、賃金の支払状況にかかわらず、休業した日を報酬支払の基礎となった日数として取り扱って差し支えありません。
※ 本特例措置は、同一の被保険者について複数回申請を行うことはできません。
※ なお、被保険者期間が急減月を含めて3か月未満の方については、特例改定の要件となる被保険者期間を満たさないため、特例改定による届出の対象とはなりません。
ちょ、ちょっと熟読するのは少しつらい…。
ということで、要点をまとめてみたいと思います。
2つの要件の違い比較表
以上の内容をまとめたのが、こちらの表です。
やはり、多くの箇所で特例な部分がありますね。
定時改定(算定)との関係は?
新型コロナウイルス特例改定をした場合、通常の定時改定(算定)との関係はどうなるでしょうか。
日本年金機構のQ&Aではこのように書かれています。
5・6月に特例改定を受けた場合は、定時決定は必要となります。
一方、7・8月に特例改定が行われた方については、定時決定を行う必要はありません。
つまり、どの月で特例改定をするかによって、定時改定(算定)の要否が分かれるということです。
特例改定後、休業しなくなったら再度特例改定は必要?
定時改定(算定)をした→不要 定時改定(算定)をしていない→必要
では、休業が終わり、通常の報酬(給与)に戻った場合、特例改定をする必要はあるのでしょうか?
日本年金機構のQ&Aにはこのような記載があります。
本特例改定による改定後に、昇給など固定的賃金の変動により随時改定の要件に該当することとなった場合には、通常の随時改定の届出が必要となります。
固定的賃金の変動がない場合は、通常の随時改定の要件を満たさないため、 月額変更届の提出は必要ありません。
また、定時決定が行われない7月分又は8月分保険料から本特例改定による改定が行われた方については、休業が回復した月から継続した3か月間の報酬による標準報酬月額が2等級以上上昇する場合には、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、月額変更届の届出が必要となります。
※ 休業が回復した月とは、報酬支払の基礎となった日が 17 日以上ある状態をいいます。
このため、例えば、数日程度休業があっても、 17 日以上就労し、 報酬の支払の基礎となる日数があれば、休業が回復したものとして取り扱われますので、ご注意ください。
つまりは、定時改定(算定)をしている場合は必要なし、定時改定(算定)をしていない場合は必要ということになります。
定時改定(算定)をしていない場合、休業が解消した場合の月変も必要?
また、一部休業はあったものの、17日以上勤務し、再度特例改定をした場合、完全に休業がなくなった場合は再度月変が必要なのでしょうか?
年金機構のQ&Aでは、このような回答がされています。
7・8月に特例改定を受けた方について、休業が回復した場合における特例的な随時改定(固定的賃金の変動にかかわりない)を行った後については、通常の随時改定の取扱いに基づき、随時改定を行うこととなります。
すなわち、本特例改定後に支払基礎日数が 17 日以上に回復したことにより固定的賃金の変動に かかわりなく随時改定を行った後に、なお解消されていなかった一時帰休が解消した場合(固定的賃金が変動した場合)には、従前の随時改定の取扱いのとおり、 一時帰休の解消を固定的賃金の変動として、継続する3か月の報酬により標準報 酬月額が2等級以上変動する場合には、随時改定を行うこととなります。
うーん、難しい…。
以前のブログ記事でも書いたとおり、休業が終わったときは、固定的賃金の変動がなくても、休業が終わった=固定的賃金の変動があったとして、月変をするということです。
なかなか混迷を極めますね…。このあたりのことを図でまとめてみました。
やはりポイントは、いつ特例改定をするか、そして7~8月に特例改定した場合は、いつ休業が終わったかということになりそうです。
いつ特例改定をするのがいい…?
では、4月から7月までの間で、複数の月で新型コロナウイルスの影響による休業により、報酬が著しく低下した月があった場合は、いつ特例改定をしたらよいのでしょうか。
ポイントは、この新型コロナウイルスの特例改定は、被保険者1人につき、1回しかできないということです。
つまり、こういうことですね。
・4月に一部休業があった→5月に特例改定
・5月に完全休業→6月に特例改定
→このように、2回特例改定をすることはできない
そこで、特例改定をしたタイミングで健康保険料の本人負担がどのくらい変わるのかということを試算してみました。
今回の試算では、このようなケースを想定しました。
・東京都の協会けんぽ加入者の40歳未満の被保険者
・5月は休業により通常のおおよそ半分の報酬(給与)
・6月はさらに5月の半分の報酬(給与)
・7月からは休業も解消され、通常の報酬(給与)に戻った
◆東京都 協会けんぽ 健康保険料
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r2/ippan/r2030113tokyo.pdf
このケースの場合、
①5月を著しく低下した月として、6月に改定するのか
②6月を著しく低下した月として、7月に改定するのか
このどちらを選ぶかによって保険料は変わるのか、確認してみた表がこちらです。
この表を見るときには、「健康保険料の控除は翌月の給与から控除」というのも押さえておくポイントです。
①の6月改定の場合、実際には7月給与時から保険料が安くなりますが、定時改定により、10月給与時から元の保険料額に戻ります。
②の7月改定の場合、保険料が安くなるのは8月給与時からと遅いですが標準報酬月額は①より低くなります。
また、定時改定(算定)の対象とならないため、7~9月で元の給与に戻った場合、11月給与から健康保険料は元の額に戻ります。
そのため、①と比べて保険料の安い期間が長くなります。
つまり、このケースの場合は、②のほうが保険料の負担が安くなりました。
今回は健康保険料の本人負担分だけで試算しましたが、実際にはこれに加えて厚生年金保険料の本人負担分、そして、健康保険料・厚生年金保険料どちらも事業主負担分も変わってきます。
なので、労務ワーカーとしてはどこまで試算するか悩ましいところです…。
特例改定をするために必要な手続きとは ※7/15追記
次に、新型コロナウイルスの特例改定に必要な手続きについて整理してみます。
必要な書類は以下のとおりです。
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届(特例)/厚生年金保険70歳以上被用者月額変更届(特例)
- 新型コロナウイルス感染症の影響に伴う標準報酬月額の改定に係る申立書
注意すべき点は、以下のとおりです。
- 月額変更届は通常の様式ではなく、特例のものを使うことと
- 1回の申請につき、1枚の申立書が必要
- 同意書は提出は不要だが、調査で確認を求められる可能があるので、届け出日から2年間は保管しておく
- 提出先は事務センターではなく、年金事務所に郵送すること
- 電子申請はできず、紙での申請のみ
→2020/7/15追記
7/15付で、日本年金機構から電子証明書を利用した「e-Gov」からの電子申請の受付を開始する旨の発表がありました。
なお、今回の特例改定の届出は、GビズIDを利用した電子申請、電子媒体による申請には対応せず、e-Govのみとなるそうです。
◆日本年金機構 標準報酬月額の特例改定の電子申請に係るQ&A
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0625.files/denshiQA.pdf
以上をふまえ、特例改定をする手順と注意点について、図にまとめてみました。
以上になります。
今年は本当にイレギュラーなことが多く、労務ワーカーにとって試練の年ですね…(/_;)
情報に追いつくだけでも大変ですが、少しでもみなさんの労務の仕事が楽になるような情報発信を、今後もしていきたいと思っています。
まとめ
- 新型コロナの特例改定は令和2年4月から7月までの報酬の減額限定
- 通常の月変とは違うところを押さえよう
- 特例改定は1被保険者につき1回しかできない
- 提出には申立書が必要
- 同意書は添付は不要だが、調査対応のために、2年間は保存しよう
- 保険料は後日精算でいいので、あわてず対応しよう